第二章 神の生まれ出 づる杜 (1)
魚眼潟国のあるこの辺りは『
獣道すら満足に無いような土地を、俺達は草をかき分け徒歩で進むしかなかった。
「私はこれから、あなた様のことを何とお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「お前、俺の名は既に知っているのだろう?俺の
「はい。ですが、あまり良き御名前とは思えません。ツキタチアラミタマノカガチヒコ様だなどという御名前は……。あなた様はもはや、
ツキタチアラミタマノカガチヒコ――俺の存在を知った周りの国の民達が勝手に付けたその名は、
「俺はそのようなこと、気にはせぬが。ならば、お前が好きに名付ければ良い」
「好きに……ですか」
花夜は困惑した顔で、しばらくの間沈黙した。
「……では、ヤトノカミ様というのは、いかがでしょう?」
「ヤトノカミ?」
「はい。あなた様は
「……少し安直過ぎではないか?」
「好きに名付けろとおっしゃったのは、あなた様でしょう。それに、無闇に本質を表した名前よりは良いと思いますが。名を知られただけで相手に弱点を
花夜はむっとした顔で反論する。彼女の言うことは真理だった。『名付け』というものは、この世界の基礎となる呪術の一つだ。『名』はそのモノの本質を表し、力を与えもすれば、逆に奪いもする。
「まぁ良い。俺はお前の神なのだから、お前の好きに呼べば良いさ」
「では……ヤト様、とお呼びしてもよろしいのですか?」
「ああ。好きに呼べと言っている」
「では……『ヤト様』」
花夜は、はにかんだような顔で名を呼んだ。俺の後を一、二歩離れ、駆け足でついてくる彼女の顔には、いつでも笑みが浮かんでいた。俺と共にいることが嬉しくてたまらないとでも言うように。俺はそれを、孤独な
※このページは津籠 睦月によるオリジナル和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」のモバイル版本文ページです。
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