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和風ファンタジー小説
花咲く夜に君の名を呼ぶ

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第一章 鳥追う少女(おとめ)(2)

「先ほどの『鳥』はお前の何だ?」
 俺は彼女の言葉には答えを返さず、そう切り出した。さっきの鳥と目の前の娘とでは、身にまとう霊力がまるで違っている。社首(やしろおびと)と言えば、その国でも最高位の(カンナギ)であるはずなのに、霊力の高さで言えば先ほどの鳥の方がよほど、この娘よりも高く見えた。その問いに彼女の顔がくもる。
「あれは我が母・鳥羽(とわ)(たましい)です。死してもなお、私を守り、導いてくれているのです」
 俺は何の感慨もなくそれを聞いた。当時は今よりも更に人死(ひとし)にの多い時代だ。戦争も疫病(えきびょう)も世の中に(あふ)れていた。だからこそ人々は、そんな災いから自分達を救ってくれる鎮守神(ちんじゅしん)を求めたのだ。
「娘、俺の噂は知っているのだろう?森を燃やし、何人もの人間を焼き殺した、手のつけられぬ荒魂(アラタマ)だと。その(とし)生命(いのち)()しくはないのか?」
 わざと(おど)すように低い声で問うが、娘は少しも(ひる)まない。
「私の生命は、自らが定めた道を(つらぬ)くためにあるものだと思っています。そのために失ったとしても、惜しいとは思いません。それに、今の私より若くして亡くなった人を、今までにもう何人も見送ってきました。生命とは(はかな)く、いつ終わるとも知れぬものだと理解しています。だから、毎日を悔いのないよう一生懸命に生きてきました。覚悟はできております」
(とし)のわりに立派なことだ。しかし口だけなら何とでも言える。その覚悟、どこまで()つか見せてもらおうか」
 言って俺は指を鳴らした。直後、周りの草陰から、白いウロコに赤い眼を持つ蛇達が次々と()い出してきた。俺に仕える神使(カミツカイ)の蛇達だ。蛇達はそのまま花夜の周囲を取り囲み、半開きの口からシャーッと威嚇(いかく)音を出す。普通の娘であれば悲鳴を上げるか気絶するかしているところだ。しかし彼女は身動(みじろ)ぎもせずその場に留まっていた。俺はいらいらして吐き捨てるように告げた。
「娘よ、去れ。俺はどの国の鎮守にもなる気はない。国同士の争いに巻き込まれるのも、この力で他国を滅ぼすのも御免だからな」
「あなた様の御力を争いのために使うつもりはありません!私はただ、祖国を――大切な場所や人達を守るための力が欲しいのです!他を滅ぼすためでは決してありません!」
 娘は必死に訴える。瞬間、その声に、頭の中で(なつ)かしい若者の声が重なった。
 ――ならば私は、他を滅ぼすための力でなく、大切な何かを守りきるための力をそなたに授けよう。
(……真大刀(またち))

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