オリジナル小説サイト|言ノ葉ノ森

和風ファンタジー小説
花咲く夜に君の名を呼ぶ

TOPもくじ
 
本文中の色の違う文字部分をタップすると別窓に解説が表示されます。

第六章 幸有(さくあら)の花(3)

「あの、大丈夫(だいじょうぶ)ですか?お怪我(けが)はされていませんか?」
 花夜は道にうずくまる農夫達に(あゆ)み寄り、声を掛けた。農夫達は花夜と、大刀から姿を変えた俺の姿を見て顔色を変え、地に頭を(こす)りつけるようにして平伏(へいふく)した。
「大刀に宿る神様とその巫女様!お助け下さり、真にありがとうございます!何とお礼を申し上げたら良いのか……」
 農夫達のその態度に、花夜はむしろ恐縮(きょうしゅく)したようにあわてて口を開く。
「いえ、当然のことをしたまでですから。そのように(かしこ)まらないで下さい」
「そのようなわけには参りません!もしあなた様方がお助け下さらなければ、我々はあのまま殺されていました!」
「そうです。是非(ぜひ)お礼をさせて下さい。我ら、田舎暮らしの農夫の身にて、(たい)したおもてなしはできませんが、せめて一夜の宿と御食(みけ)くらいは……」
 『御食』という言葉に、花夜の(まゆ)がぴくりと動いた。
「い、いえいえ。そのような……。私達は何も見返りを求めてあなた方を助けたわけではありませんし……」
 口では遠慮(えんりょ)しながらも、その目はどこか期待するように輝きを()びていた。仮にも元は一国の姫であり、神と(ちぎ)りを結んだ巫女としてあるまじき態度ではあるのだが、無理もないことだ。ここしばらくの間、口にしてきたものと言えば神使(カミツカイ)の蛇達の集めてきた野草(やそう)(きのこ)ばかりだったのだから。
「花夜、どうせ今夜の宿の当ても無いのだ。ここは素直に礼を受けよう」
 俺が(うなが)すと、花夜は顔をほころばせてうなずいた。

戻るもくじ進む

※このページは津籠 睦月によるオリジナル和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」のモバイル版本文ページです。

ページ内の文字色の違う部分をクリックしていただくと、別のページへジャンプします。
個人の趣味による創作のため、全章無料でご覧いただけますが、著作権は放棄していませんので、無断転載等はおやめください。

モバイル版はPC版とはレイアウトが異なる他、ルビや機能が少なくなっています。

 
inserted by FC2 system