第六章 幸有 の花(2)
「今のは……悲鳴ですか!?」
「ああ。それも一人や二人ではないな。何かの争い……いや、力の無い者達が一方的に襲 われているようだ」
「旅人を襲う賊 でしょうか。……ヤト様!」
花夜はただ振り返って俺を呼んだ。意図 を察し、俺はしぶしぶ変化 をとる。本当は危険なことに首を突 っ込 んで欲しくなどないのだが、彼女の性格がそれを許 さぬのだから仕方 がない。一瞬で大刀 へと変わった俺を掴 み取り、花夜は声のした方へと駆 け出した。頭に載 せていた花かんむりがぱさりと地に落ちる。
駆けつけた先では数人の農夫 が賊 に襲 われていた。道の上には荷車 が横倒しになり、そこに積 まれていたであろう
の布 が辺 りに散らばっていた。おそらくは邑 に課 せられた調 物 を国府へ納めに行く途中 で襲われたのだろう。
「あなた達!何をしているのですか!?」
淡い桃花染 の衣を翻 し、俺を頭上高く振り上げて、花夜は叫んだ。
賊達は一瞬面食 らったように動きを止め花夜を見つめていたが、その顔には次第 に下卑 た笑 みが浮かんでいく。
「おい、見ろよ。こんな田舎 にゃ珍 しい香少女 じゃないか。おまけに持っている大刀 も相当な上物 だ。どうする?」
「分かりきったことを聞くな。両方いただくに決まっているだろう」
問いも、言葉自体さえも無視されながら、それでもなお、花夜は言葉での説得 を試 みる。
「今すぐ略奪 をやめなさい。あなた達が奪おうとしているものは、そこの農夫の皆さんが膨大 な時間と労力を費 やして作り上げた労苦の成果です。それを武力で踏 みにじろうと言うなら、容赦 しません」
だが、いかにも非力 な少女にしか見えない花夜のそんな言葉で、賊達が考えを変えるはずなどなかった。
「容赦 しない、だと?何をどう容赦しないって言うんだ?あんたみたいな娘さんが」
「馬鹿 な娘だなぁ。わざわざ自分から飛び込んで来るなんてな。大刀さえ握 れば俺たちに敵 うとでも思ったのか?」
花夜のことを端 から舐 めてかかっている賊達は、嘲 りの言葉を口にしながらじりじりと近づいてくる。花夜はため息をつき、俺の刀身 を振 り回し始めた。
「どうやら、改心する気は無いようですね。ならば、容赦 なく当てさせていただきます。……神罰 を」
俺を握 った腕 を大きく振り回しながら、花夜は踊 る。刀身が風を切り、刃先に火花が散る。それはやがて一点に集まり、朱 くゆらめく炎 を成 していく。賊達はぎょっとして後ずさった。
「な……っ、何だ、あれは……っ」
「分からん。だが、とにかく逃 げろ!」
「逃がしはしません。神使 よ、出 でませ!」
花夜が鋭 く叫ぶと、草野から神使の蛇 が次々と現れ賊達の退路 を塞 いだ。恐怖に顔を引きつらせる賊達へ向け、花夜は俺の刀身 を振るう。刃先に渦巻 いていた炎 は、まるで流星のごとく宙空 を駆 け、幾筋 かの炎の矢となって賊達に向かっていった。
「うわぁああぁッ!?」
賊達の全身が瞬 く間 に火焔 に包まれる。花夜は間 を置かずに再び俺の刀身 を振るった。今度は火花ではなく鎌鼬 のような風が巻き起こり、賊達の身を包む炎を一瞬で消し飛ばす。賊達は髪や衣を焼き焦 がした姿で、ただ呆然とその場に立ち尽 くしていた。そこへ花夜が静かに歩み寄る。
「ひッ!?」
「く、来るなっ!」
「殺さないでくれっ!頼 む!」
「その命乞 い、あなた達に襲 われたこの人達もしたのではありませんか?」
花夜はどこか可哀相 なものを見るような表情で賊達を見つめながらも、その喉元 に刃を突きつける。
「きっとあなた達は、今までにその罪に見合った罰 を受けてこなかったせいで高 を括 っているのでしょうけれど、悪事の報 いというものは受ける時には受けるものなのですよ」
あくまでも当たり前のことを言い聞かせるように、穏 やかな口調 で花夜は語りかける。だが、そんなその場の空気にそぐわない花夜の姿が余計に賊達の恐怖を煽 ったらしかった。彼らは奇妙な声を発し、後も見ずに走り出そうとした。だが、周りは既 に囲まれていて逃げ場などあるはずもなく、賊達はみっともない姿でその場に転がった。その身体の上を、すかさず神使の蛇達がにゅるりと這 い回る。賊達は恐怖に頬 を引きつらせ、そのまま気を失った。
「ああ。それも一人や二人ではないな。何かの争い……いや、力の無い者達が一方的に
「旅人を襲う
花夜はただ振り返って俺を呼んだ。
駆けつけた先では数人の

「あなた達!何をしているのですか!?」
淡い
賊達は一瞬
「おい、見ろよ。こんな
「分かりきったことを聞くな。両方いただくに決まっているだろう」
問いも、言葉自体さえも無視されながら、それでもなお、花夜は言葉での
「今すぐ
だが、いかにも
「
「
花夜のことを
「どうやら、改心する気は無いようですね。ならば、
俺を
「な……っ、何だ、あれは……っ」
「分からん。だが、とにかく
「逃がしはしません。
花夜が
「うわぁああぁッ!?」
賊達の全身が
「ひッ!?」
「く、来るなっ!」
「殺さないでくれっ!
「その
花夜はどこか
「きっとあなた達は、今までにその罪に見合った
あくまでも当たり前のことを言い聞かせるように、

※このページは津籠 睦月によるオリジナル和風ファンタジー小説「花咲く夜に君の名を呼ぶ」のモバイル版本文ページです。
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