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魔法巫女エデン
 
 
 
 
 
デコ盛りモードゼロいちに

Episode1:Not 魔法少女 But 魔法巫女!

〜マホウショウジョジャナクテ、マホウミコナノ!〜

 自分の家庭(いえ)がよそと(くら)べてちょっと(ちが)ということに、人間(ひと)は意外と気づかない。
 むしろ、そのちょっと特殊(とくしゅ)な家庭事情を、ごくごくフツウの当たり前とカン(ちが)いしてしまったりする。エデンの場合もそうだった。
 いや、エデンの場合、分かりやすく特殊(とくしゅ)な母親のせいで、父親の特殊性に気づくのか少しばかり(おく)れてしまった、と言い(わけ)できなくもない。

さくらライン

「ねぇパパ、イギリスにはママのパパとママ――つまり、エデンのおじいちゃまとおばあちゃまがいるんだよね?」
 小3当時のエデンの()いに、父・慈恩(じおん)縁側(えんがわ)(ひざ)の上のタヌキ()でながら、(こま)ったような顔で微笑(ほほえ)んだ。
「そうだね、いるよ。今もお元気でいらっしゃると思うよ」
「……じゃあ、何で会えないの?エデン、おじいちゃまとおばあちゃまに会ったことも、メールやお手紙したこともない。それにイギリスにだって一度も行ったことない。そんなのヘンだって、みんなに言われた。エデンがウソをついてるんじゃないかって……」
 エデンの母親は英国人、父親は日本人。つまりエデンは日英ハーフだ。
 それを知ると大概(たいがい)のクラスメイトは(めずら)しがり、自分たちの知らない“イギリス”の話をききたがる。
 だがエデンもまたそんなクラスメイトたちと同じく、イギリスのことなどほとんど知らなかった。
 エデンの母親は自分の()い立ちや故郷(こきょう)のことについてはいつも言葉(ことば)(にご)、教えてはくれなかったからだ。
「ごめんなー、エデン。パパとママはカケオチ同然に結ばれたから、ママのパパとママはもちろん、パパのパパとママにも、うかつに会いに行くことはできないんだ」
 そう言いながら、慈恩は誤魔化(ごまか)すように足元に伏せた仔鹿(こじか)の頭を()でる。
「じゃあ、エデンはこれからもイギリスに行くことはできないの?」
「……そうだなー。いろいろな問題が解決したら、いつかは行けるかもなー。あ……でも、その時にはこのコたちをどうするかな……。置いてけぼりにすると(あば)れるだろうからな……」
 そう言って(あた)りをぐるりと見渡す慈恩の視線の先には、タヌキイノシシキツネきつねニホンザル仔鹿(おおかみ)(……のように見えるが、ニホンオオカミは絶滅(ぜつめつ)したはずなので、おそらくは狼に()た大きいなのだろうとエデンは当時思っていた)が、それぞれ思い思いの格好(かっこう)でくつろいでいた。
「そっかぁ……ミドリボタンコンちゃんパン君ビビちゃんも、飛行機には乗せていけないもんねぇ……。コタちゃんななちゃんだけならイヌネコでペットってことで連れて行けるかも知れないけど……」
「ははは。ふたりだけヒイキはできないなー。そうなると、パパは家にお留守番(るすばん)かな?」
「えー?それはダメだよ!それにななちゃんが行かないんだったら、エデンも行かない!だってエデンはななちゃんのゴハン係だもん!一日だって(はな)(ばな)れはダメなの!」
 その時「ゴハン」という単語に反応(はんのう)したのか、奥の和室から細身の黒猫首輪(くびわ)(すず)をちりちり鳴らして歩いてきた。
 猫はエデンの前まで来て「なぁー」と鳴いた後、すぐに慈恩の(うで)にまとわりつき、甘えだす。
「あぁー!ななちゃん!ななちゃんのゴハン係はパパじゃなくてエデンだって、いつも言ってるでしょ !? おねだりするならパパじゃなくてエデンじゃなきゃダメなんだからね!」
「ははは。これはゴハンの催促(さいそく)じゃなくて、純粋(じゅんすい)にパパに好意(こうい)(しめ)しているんだよ」
「もうっ!何でななちゃんも他のみんなも、パパが一番なの !? いっつもみんなをひとり()しててズルいよっ!」
「ははは。仕方(しかた)ないさ。だってパパはこのコたちの……」

桜ライン

 そこで、エデンは夢から()めた。
 エデンはぼんやりとベッドの上に起き上がり、夢に出てきた(なつ)かしい風景に思いを()せる。
(……あれは、4年前かな……。あの(ころ)はまだ、パパも(みんな)もいたんだよね……)
 平屋建(ひらやだ)てのこじんまりした日本家屋(にほんかおく)に、家族三人で、たくさんの動物たちに囲まれて()らしていた(おさな)(ころ)記憶(きおく)が、今もエデンにとって一番大切な思い出だ。
(あの頃はフシギに思ってなかったけど、パパってば(なん)であんなに動物に好かれてたんだろう?犬(?)のコタちゃんや猫のななちゃんはともかく、フツウは野生(やせい)の動物たちがあんな(ふう)にフツウの家でペットみたいに(なつ)いてるってこと、あんまり無いよね……。しかもあんなにいろいろな種類の動物たちが、ケンカもせずに一緒(いっしょ)にいたなんて……)
 時計を見ると、目覚(めざ)ましアラームの5分前だった。
 エデンはベッドから下り、制服に着替(きが)え始める。二日前に入学したばかりの私立中学の制服だ。チョコレート色のセーラーカラーと、特徴的な形で入った桜色のラインがエデンは気に入っている。
(なつ)かしいな……。あれからパパが事故いなくなっちゃって……皆も、いつの()にかいなくなっちゃってたんだよね……。タヌキのミドリに、イノシシのボタン、キツネのコンソメに、サルのパンチ、鹿のビビンバに、犬(?)のコタツ、そして……ななちゃん……)
 幼いエデンにとって野生(やせい)(けもの)(からだ)の大きな犬(?)は、()れてはみたいものの何だか少し近寄り(がた)く、唯一(ゆいいつ)安心して可愛(かわい)がれたのが“ゴハン係”として世話(せわ)をしていた黒猫だった。
 (きぬ)のようにつややかな毛並(けなみ)に金色の(ひとみ)、細くて長い優美なシッポを持つ美しい黒猫だ。エデンは今でもこの猫が世界で一番美しいと思っている。
(ななちゃん……。今もどこかで生きてるよね……?いつか、また会えるよね?会いたいよ……ななちゃん……)
 いつもの(ねが)いを(むね)の中で(ささや)きながら、エデンは窓辺(まどべ)に立ち、フリルドレープがたっぷりついたカーテンを(いきお)い良く開けた。
その先に広がっていたのは、夢に出て来たこじんまりした庭ではなく、広々としたバルコニー、そしてその向こうに広がる美しいイングリッシュ・ローズガーデンだった。
 そう、今のエデンが()らしているのは、幼い頃に住み()れた平屋建ての小さな家ではない。明治時代の華族(かぞく)邸宅(ていたく)を思わせる、広大で華麗(かれい)で、古めかしい洋館(ようかん)だった。
「……夢と現実のギャップが(はげ)しい……」
 思わず口に出してつぶやき、エデンは部屋を出る。
 繊細(せんさい)な装飾の(ほどこ)された手すり付きの階段を下り、この屋敷の中でもとりわけ広いダイニング・ルームの(とびら)を開けると、そこにはさらに現実味の無い光景が()ち受けていた。
「アラ、エデン。おはようございますでス」
 胸元(むなもと)の開いた黒サテンのワンピースに、グロスでつやつやと輝く唇(ゆた)かに波打つ金髪(きんぱつ)をナチュラルに(かた)に流した、まるでハリウッドセレブ女優のような美女が優雅に微笑(ほほえ)み、朝のあいさつをしてくる。
「……おはよう、ママ」
 エデンの母・コーデリア。日本での名は鈴木小照夜、イギリスにいた頃の元の名はコーデリア・クロウリー。彼女こそがエデンの生活を現在(いま)の状態へと激変させた張本人である。
「ママ、その格好(カッコ)で会社に行くの……?」
「今日は午前中から新商品の撮影(さつえい)があるのでス。家から直接向かうのでス」
 コーデリアも数年前――慈恩がいた頃までは、このような派手な姿ではなかった。長い髪を一つに(たば)ね、服装はいつもシンプルな(あわ)いパステルカラーのコーディネートで、いかにも清楚(せいそ)な母親という雰囲気(ふんいき)を漂わせていた。
 それが、慈恩がいなくなり『これからはワタシがこの家の大黒柱(だいこくばしら)なのでス!』と言い出して化粧品(けしょうひん)の会社を立ち上げてからは『社長本人が美のカリスマにならなくては、説得力(せっとくりょく)がありませんのでス!』と、どんどん派手(はで)容姿(ようし)変貌(へんぼう)していった。
 会社は同業者たちから『一体どんな魔法を使ったんだ?』と(おどろ)かれるほどのスピードで業績(ぎょうせき)を上げていき、ついには中古物件(ちゅうこぶっけん)とは言え、こんな豪邸(ごうてい)購入(こうにゅう)できるまでになったのである。
 とは言えこの引越(ひっこ)しに、住み()れた家を(はな)れたくなかったエデンは猛反対した。だがコーデリアは『エデンにはそのうち、広い住宅が必要になる可能性がアルのでス!』と、よく分からないことを言い張って聞き入れてくれなかった。
 そして、この屋敷に()してきてから、さらにエデンを戸惑(とまど)わせている事態(じたい)がもう一つ。それは……
「おはようございます、エデン様」
今朝(けさ)はいつもより少しお早いですね、エデンお嬢様(じょうさま)
「すぐに朝食をお持ちします!お嬢様!」
 ダイニング・ルームのあちこちから次々に声をかけてきたのは、執事(しつじ)風のスーツに身を包んだ、それぞれタイプの(こと)なる三人の美青年(イケメン)だった。
「お……おはよう、ございます……。アンバーさん、マイカさん、アズライトさん……」
 彼らはこの屋敷(やしき)(つと)めるハウス・キーパーたちだ。この場にはいないが、この屋敷には厨房係(ちゅうぼうがかり)庭師(にわし)など、他にも容姿(ようし)の整った男たちが勤務(きんむ)している。
(……いつも思うんだけど、何なの?このイケメン逆ハーレムは……。自分の家じゃないみたいで、落ち()かないよ……)
 父がいなくなった後、次々と若い男を(やと)()れ始めたコーデリアに、(はじ)めエデンは猛反発(もうはんぱつ)した。しかしコーデリアはどう見ても(いま)だ慈恩一筋(ひとすじ)で、他の男と恋愛関係に発展しそうな気配(けはい)微塵(みじん)もない。だが、彼らの方は……
「コーデリア様、朝の紅茶ティーカップ をお持ちいたしました」
「コーデリア様、今朝はどの新聞からお読みになりますか?」
「コーデリア様!新しいお花を(かざ)ってみました!今回は元気が出るようにとインコ風極彩色にまとめてみたのですが、いかがですか?」
 コーデリアに(むら)がる彼らの様子(ようす)はまるで女王にかしづく下僕(しもべ)……いや、主人からホメられたくて必死にアピールするペットのようだった。その(ひとみ)にはいずれもコーデリアに対する(せつ)ないほどの情熱(じょうねつ)宿(やど)っている。
 他人の(むく)われない片想(かたおも)いを朝から見せつけられたエデンは、今朝もいたたまれなさに身を小さくして朝食を終え、そそくさとダイニング・ルームを出ようとする。
「じゃあ、行ってくるね、ママ」
「あァ、エデン。チョット()つのでス」
「え?何?」
「エデンが花咲(はなさか)に入学して、今日で3日目でスね?何か変わったコトは起きていませンか?」
「変わったこと……?ううん。べつに何もないけど」
「そうでスか。それならバ、ヨイのでス」
 何か引っかかるような母の質問(しつもん)にわずかの違和感(いわかん)(おぼ)えながらも、エデンはそのままダイニング・ルームを後にした。

さくら(罫線)

エデンの(かよ)私立(しりつ)花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)中等部(ちゅうとうぶ)専用(せんよう)の通学バスを持ち、いくつかのバス乗り場を巡回(じゅんかい)して生徒たちを(ひろ)っていく。
 エデンはそんなバス乗り場の一つでバスを()ちながら、心の中で自分に気合(きあい)を入れていた。
(今日こそは、もっと(みんな)と仲良くならないと!教室でちょっとおしゃべりする程度(ていど)じゃなく、一緒(いっしょ)に遊んだりとかいろいろできる“友達”を作らなきゃ!)
 父親の()けた独特(どくとく)な名前と、よくよく目を()らして見れば「ひょっとしてハーフ?」と気づかれるようなやや色素(しきそ)(うす)(かみ)と目の色により、エデンに話しかけてくれるクラスメイトは入学初日から結構(けっこう)確率(かくりつ)存在(そんざい)した。
 だが小学生の(ころ)と変わらず、昨日(きのう)一昨日(おととい)も、母親やイギリスに(かん)する質問に上手(うま)く答えられず、がんばって()わりの話題を()ろうとするも空回(からまわ)りばかりしてビミョウな空気を作ってしまったエデンなのである。
(この学校、知ってる子、少ないんだもん。しっかり友達作りしておかなきゃ、これからの学校生活(スクール・ライフ)(かか)わってくるもんね)
 失敗続きの2日間を思い出してほんのり(へこ)みつつも、エデンの心はリベンジに()えていた。早い段階(だんかい)でいかにクラスメイトたちと良好な関係性(かんけいせい)(きず)けるかで今後(こんご)の1年間が変わってくると言っても過言(かごん)ではないのだ。事態(じたい)切実(せつじつ)だ。
(そう言えば、このバスに同じクラスの子、乗ってたりしないのかな?通学路(つうがくろ)一緒(いっしょ)だと仲良くなりやすいよね……)
 到着(とうちゃく)したバスの(とびら)(ひら)くなり、エデンはタイムセールのワゴンからお目当(めあ)ての(しな)(さが)し出そうとするかのような必死さで車内を見渡(みわた)していった。だが、そのせいで足元への注意がすっかりおろそかになる。
 気づけばエデンは車内へ上がるステップの段差(だんさ)を思いきり()(はず)していた。
「きゃ…………っ汗
(……ヤバいっ、(ころ)んじゃう……!しかもこの体勢(たいせい)のままじゃ、すっごく派手(はで)にコケちゃうよ……っ!青ざめあせ
 一気に血の()が引く。エデンは無意識(むいしき)に身を(かた)くし、これから(おとず)れるであろう衝撃(しょうげき)(そな)えた。
 だが、長いようで短い一瞬(いっしゅん)の間の後に訪れたのは、想定(そうてい)していたのとはまるで(ちが)う『ぽすん』というごくごくソフトな衝撃(しょうげき)だった。
「…………え?」
「……大丈夫(だいじょうぶ)か?」
 頭上(ずじょう)から()ってきたのは、どこか(なつ)かしい(ひび)きを持つ……だが、(まった)く知らない少年の声。
 おそるおそる視線(しせん)を上げると、そこには(きぬ)のようにツヤめくサラサラの黒髪(くろかみ)にふちどられた、線の細い印象(いんしょう)の少年の顔があった。
 エデンはすぐには状況(じょうきょう)把握(はあく)できず、ただ呆然(ぼうぜん)とその顔を見上げる。
(え……っと……(だれ)、だっけ……?(なん)だか、やけに(なつ)かしいような気がするけど、思い出せない……。って言うか、今のこの状況は……?)
 (ほお)に感じる制服の生地(きじ)感触(かんしょく)と、(ささ)えるように()に回された(うで)のぬくもりに、エデンは(おく)ればせながら、自分が(かれ)()きとめて助けてもらったことを(さと)る。
「わっ、うわわわわわわっ……汗 あ、あ、ありがと……う、ご、ございます……っ!赤面あせ
 動揺(どうよう)のあまり言葉(ことば)上手(うま)く出て来ない。彼はにこりともせずにエデンを見つめると、無言(むごん)でその体勢(たいせい)(ととの)えさせ、さっさとバスに乗り()んでいってしまった。
 だがエデンはその()(ぎわ)、彼の(くちびる)からこぼれた小さなつぶやきを聞き(のが)さなかった。
「……ったく、相変(あいか)わらず(あぶ)なっかしいやつ……」
「え……?」
(この人、私のこと知ってる……?何だかこの人を見てると、()きたいくらいに(なつ)かしくなる……これは、気のせいじゃ、ない?でも、思い出せない。分からないよ。この人、(だれ)なの……?)

 思うがままに質問を()びせたかったが、彼はもはやエデンの方など一切(いっさい)見ておらず、その横顔からは『話しかけるな』と言わんばかりの威圧感(いあつかん)が感じられた。
 エデンはしかたなく、少し(はな)れた座席(ざせき)から、(まど)の向こうの景色(けしき)を見るフリをしながらチラチラと彼の姿(すがた)をながめることにする。
「ねぇねぇ、あのヒト、なんかカッコよくない?クール美少年ってカンジ。あんなヒト、うちのガッコにいたっけ?」
「あの校章(こうしょう)の色、2年だよね。でも、見覚(みおぼ)えないなぁ……。あんなタイプ、うちの学年にいたかなぁ?」
 (すで)に車内にいた女子二人組が、彼の方を指差(ゆびさ)してヒソヒソささやくのが聞こえてくる。
(2年生……。じゃあ、一年先輩(センパイ)なんだ)
 さっきから心臓(しんぞう)ドキドキ(はげ)しく脈打(みゃくう)って()()かない。それがステップを()(はず)しかけたせいなのか、それとも別の何かのせいなのか、エデンには判断(はんだん)がつかなかった。
(話しかけたい……なぁ。でも、何だか近寄(ちかよ)りがたい感じがするし、心臓がドキドキ()ぎて上手くしゃべれない気がする……。それに、そもそも(なん)て言って話しかけたらいいのか分からないよ……っ。)
 エデンがそんな(ふう)にモヤモヤ(なや)んでいる間にも、バスはどんどん進み、学園に近づいていく。
 中高一貫(ちゅうこういっかん)で多数の生徒(せいと)(かか)える花ノ咲理学園(はなのさかりがくえん)は、(おか)(……と言うより、もはや小規模(しょうきぼ)な山)をまるごと一つ敷地(しきち)に持つ広大な学校だ。そんな学校の敷地への入口を(しめ)す立て看板(かんばん)の横をバスが通り()けた瞬間(しゅんかん)、エデンは(みょう)違和感(いわかん)(おぼ)えた。
(……え?何?今、なんか(はだ)がピリッピリッ としたような……)
 何が起きたのか分からないまま、何となく車内を見回してみる。すると、例の少年が先ほどまでとは打って変わった(けわ)しい表情(ひょうじょう)でこちらに近づいて来るのが目に入った。
「……とうとう来たか。まぁ、これだけ魅力的(みりょくてき)エサ()びつかないはずがないってのは分かっていたがな……」
 少年は口の中でぶつぶつとつぶやきながらエデンの横まで移動(いどう)して来ると、おもむろにその(うで)をとった。
「え……!? あの……っ赤面汗
 戸惑(とまど)うエデンに少年はひそめた声で()げる。
「お前、今からしばらく(おれ)のそばから(はな)れるな」
「えぇ……!? な、な、何で……っ」
 言いかけ、だがその言葉を最後(さいご)まで言い終わらぬうちに、エデンはひどいめまいに(おそ)われた。
 少年は舌打(したう)ちし、エデンの腕をにぎる力を強める。
 世界が(ゆが)み、ぐるぐる回っているような感覚(かんかく)の中、エデンはどこかで聞いた(おぼ)えのある、ちりん という鈴の()を聞いた。

桜(罫線)

 

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初回アップロード日:2016年6月19日 
 
 
 
ティアラ(装飾)

このページは津籠 睦月によるオリジナル・ファンタジー小説の本文ページです。
構成要素は恋愛(ラブコメ)・青春・魔法・アクションなどです。
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