〜キョウ カラ、アナタ ハ ワタシ ノ ズットモ〜
気がつくと、エデンは昨日と同じ結界の中にいた。
昨日も見た、
「……もう気がついたのか。さすがだな」
「猫神先輩……」
レトの姿は無いが、猫神がいつもの
「これは昨日の獣と同じヤツだな……。今日はお前のクラスメイトではなく、お前を直接
猫神が難しい顔で考察を始めたその時、獣が
凍てついた風が巻き起こり、エデンたちの足元をさらに白く
「エデン、変身だ!アイツをこのまま
「ハイ!そうですよね。またピ……高梨さんみたいに、この学校の誰かが狙われたら困りますもんね」
エデンは
「!」
光が
「猫神先輩、すみませんけど、また力を貸してもらえますか?」
伸ばされた手を
「ああ。いいだろう。だが昨日のようなしょぼくれた技にはするなよ。ちゃんとよく考えて、効果のありそうな攻撃をイメージするんだ」
その言葉にエデンは「う……っ」と固まってしまう。
(効果のありそうな攻撃って……どんなのだろう?武器?鉄砲?……いっそのこと大砲とか?)
エデンの
(大砲って英語で何て言ったっけ?キャノン?カノン?確かそんな感じだったかな……。キャノン……キャ……キャラメル……じゃ
頭の中で「ああでもない、こうでもない」と想像をめぐらせているうちに、それまで
氷の
「早くしろ、エデン!
「えっと……えっとぉ……っ、ハイッ!行きますっ!」
正直まだ迷いはあったが、のん気に迷い続けていられる
「マスカット・キャンディ・キャノン!」
杖を振り下ろすと同時に、エデンたちの正面に、シャインマスカットの粒のように綺麗な黄緑色に輝く球体が出現した。ボーリングの
『ギャイン……ッ!!』
直後響いた悲鳴に、エデンはビクリと肩を
「あ……当たった……のかな?」
「そのようだな。エラいぞ、エデン。ちゃんと昨日よりはマシな技になったじゃないか。……なぜマスカット・キャンディなのかは理解に苦しむが」
後半はエデンに聞こえないよう声を
「でも……あのコ、痛そうに鳴いてた。
「まだ契約してもいなければ
猫神の声は厳しく、エデンはシュンとしてしまった。
猫神の言うことはもっともなのだが、それでもエデンは例の獣を案じるように目で探してしまう。
獣はヨロヨロと立ち上がり、自分の近くに転がる
「え……?あれ……?あのコ、私の
獣は少し
「……お前、キャンディ・キャノンというのは名前と形だけではなく、本当にでできているのか!?」
「え?何だと思ってたんですか?アメみたいな見た目をしてるだけの砲弾だと思ってたんですか?」
エデンの答えに猫神はがくりと肩を落とす。
「お前には学習能力が無いのか!?食べられるものを具現化すれば獣の
「えっと……」
(忘れたわけじゃないんだけど……獣を吹き飛ばせるくらいの強い魔法なら、食べられないと思ったんだもん)
言い
「ほら見ろ。獣の力が増してしまった」
猫神の指差す先では、透明な獣を取り巻くが明らかに大きくなり、まるでの飾りのようにキラキラ輝いていた。
「えぇ……ど、どうしたら……」
「とにかく攻撃だ!もう食い物にはするなよ!」
猫神はそう言い手を差し出す。だが、エデンが次の攻撃を
獣の周りに浮いていたクリスタルのようなが勢いよく二人に
猫神は舌打ちし、鈴の音とともにその手に鋼鉄の傘を出現させた。そのまま傘を前へ突き出し、くるくる回して飛んでくる氷の粒を
「エデン!早く次の攻撃を!」
「ハ、ハイっ!」
エデンはあわてて猫神の手をつかむ。
(えっと、えっと……食べられたらマズいから……食べられる前に消えちゃうもの!)
エデンは杖を
「!」
杖の先からフワッと無数のが飛び出した。それは空中で
『キャイン、キャインッ!』
獣はのような悲鳴を上げるが……
「えっと……
「ちょっとした電気にビリビリしたくらいのダメージしか受けていないようだな。魔法のイメージが弱過ぎたんだ」
「そんなぁ……」
シャボンの鳥が全て消えると、獣は怒ったような を上げ、何か
「え……怒ってる……?」
「あんな
「わざとじゃないのにぃ……」
エデンは泣きそうになりながら次の魔法を考える。
「えっと……フラワー・ファルコン・ファイヤー!」
杖の先からが吹き出し、ハヤブサの形にまとまって真っ
『ガウガウ……ッ!』
「また効いてない……っ」
「見た目の美しさにこだわるからだ!ビジュアルより
「えっと……えっと……じゃあ、もう……ファイヤー!」
もはや“技”としての形にこだわらず、シンプルな“炎”だけをイメージして叫ぶ。
杖の先数十cmの空中に、ポッと火の玉が表れ、獣に向かい飛んでいくが……
『グワァアァーッ!』
恐ろしい叫びと共に
『ワン!ワン!』
獣の
「痛……っ!」
「氷に対し火というのは正しいが、
「そ……そんなこと言われても……」
エデンは頭の中で“強い炎”をあれこれイメージしてみる。
(強い炎……大っきい炎……キャンプファイヤーくらいの?……ダメだ、攻撃って言うより楽しげなイメージしか浮かばない……)
『ワン!ワン!』
イライラしたように獣がまた吠えた。
再び小さなが飛んで来るが、今度は猫神が
その、パラパラと弾き飛ばされるに、エデンはふと
(……あれ?何か、攻撃弱くなってない?獣の見た目は強そうにパワーアップしてるのに、何で……?)
エデンは氷の粒をまとった
獣はイラ立ちを
『ワン、ワン、ワン!』
獣はまたしてもで攻撃してくる。
だが、それはエデンたちに何のダメージも与えない。まるで、ただ
(もしかして……)
エデンの頭に
「猫神先輩、ちょっと私、
エデンはそう叫ぶと、猫神が答えるより早く杖を
「イミテーション・オブ・ミート・ウィズ・!」
呪文と同時に杖を思いきり振り下ろす。
すると、杖の先に、マンガによく出てくる
「は!?エデン、お前、何を……」
猫神が
『ワン!ワン!ウワン!』
獣が、どこかはしゃいだ声を上げ、
『ワンワン』
もはや明らかな
『ギャワンッ!?』
という
『ウゥウゥウー……クゥーン……』
先ほどまで
「ゴメンね。そのお肉はニセモノなんだ」
エデンはおそるおそる獣に近づいて行き、
「でもね、あなたが私と
言いながらエデンは後ろ
それは獣がかぶりついた骨付き肉とそっくりな……けれど今度はホカホカと湯気が上がり、おいしそうな
『ウゥウウゥ……っ?』
獣は悩むような
「コレだけじゃないよ。他にも
獣はしばらく悩むように、ニセモノの骨付き肉と本物の骨付き肉を見比べていたが……やがて、あきらめたように一声鳴いた。
『…………ワン』
そうして獣はエデンの前に頭を
「じゃあ、これで契約だね!私の……」
言いかけ、エデンはフリーズする。
(『私の
しばらく考えた後、エデンはふと良い答えを思いついた。
「そうだ!あなた、私の“友達”になってよ!えっと……氷結の獣だから……」
エデンの頭の中に、ブリザード吹きすさぶ氷の大地が浮かぶ。
(
エデンは改めて獣に目を向け、
「ハスキー!あなたは今から、ハスキーだよ!」
獣は「まぁ
「一体どういうことなのか、説明してもらおうか」
猫神が、何とも
エデンは「えっと……」と、つまりながら、何とか説明を
「戦ってる
「氷の粒を複数回、当てられたはずだが……?」
「でも、その氷の粒も、すっごい弱々で、ほとんどこっちにダメージ無かったじゃないですか。だから、思ったんです。このコ、わざと
「どういうことだ?なぜわざわざ攻撃魔法を使わせたがる?」
猫神の言葉に、エデンは首を横に
「
エデンがそう言った直後、ハスキーが「その肉をさっさとよこせ」と言いたげに『ワン!』と
エデンは「あぁっ、ゴメンね」と、あわててハスキーに肉を
「……つまりコイツは、前回お前の攻撃を文字通り
「たぶん、そうなんじゃないかなって思って……だから、お肉を作って
エデンは「テヘ」という感じで
「……こんな形で契約を成すとは……。まぁ、慈恩の娘らしいと言えばらしい、か……」
盛大なため息をつき、猫神はハスキーと向き合う。
「では、さっさとこの結界を
その
「そうだ!私、高梨さんを追いかけてたんだ!でも、もう
「大丈夫だ。結界の中は、外よりもゆっくり時間が流れているからな。結界の外では、まだ1分も経っていないだろう」
「良かったぁー……」
エデンは胸を
(そうだ。追いつけたって、上手く話ができるか、分からない。このまま嫌われちゃう可能性も……)
不安で顔を
「大丈夫だ。お前は口が上手いわけではないが、相手のことをよく見て、その本質や本心を
言って、猫神はハスキーを
「迷いや恐れに
エデンはハッとしてハスキーに目をやる。
(そっか。私、もう
エデンは、
「ありがとうございます、猫神先輩!私、がんばります!」
そう告げるエデンの瞳に、もう不安の色は無かった。
そこにはただ『絶対に彼女を友達にしてみせる』という だけが浮かんでいた。
結界から出ても、エデンはもう気を失うことはなくなっていた。
「
桃姫はくるりと
「私に、何か用事でも?」
「あの……っ、ゴメンね!高梨さんを
「……いいよ。本名なんだし、
その声にも顔にも、もう怒りの
とりあえず、嫌われたままで終わるという、最悪の
だが、その先に何を言ったら良いか分からず、エデンはもじもじする。
(
何か言いたげなのに何も言えないでいるエデンに、桃姫も
そのまま行ってしまうでもなく、だが何を言うでもなく、ただ
奇妙な
(どうしよう。会話……会話しなきゃ。でも、何を話したら……?)
困り果てて視線をウロウロさせるエデンは、その時ふと、あるモノを見つけた。
「あれ……それ、『』の、花マル王子?」
桃姫の
思わず
「知ってるの?『花マルぽにぃ』」
「え?うん。私、王子のお
エデンが答えると、桃姫はほんの少し、目を
「……初めて会った。私以外で、花マルぽにぃが好きって人」
「あ、うん……子ども向け番組だもんね。でも、花マル王子の
「
そのまま、気づけばエデンと桃姫は『花マルぽにぃ』のどこがどう面白いかという話題で
桃姫のテンションは、一見ほとんど変わっていないように見えたが、口数は明らかに増えていた。
場所を変えることさえ思いつけないまま、そのまま
「これ、
「ああ!昨日
それは桃姫が無意識のうちに、エデンに心を
「昨日、お義兄ちゃん、私のこと『モモキチ』って呼んでたでしょ?あれ、私の名前が『モモキ』って読めるから、そこからもじって『モモキチ』になったの」
「そっか。普通は桃に姫だとモモキだもんね……」
そこでエデンはハッと思いついた。
「あの……高梨さんさえ良ければ、その……モモキちゃんって、呼んでいい?」
桃姫は一瞬無言になり、まじまじとエデンを見返した後、コクリとうなずいた。
「うん。ピーチより、モモキの方が、ずっといい。じゃあ、私は鈴木さんのこと、何て呼んだらいい?」
「えっと……どうしよう。私も、エデンそのまんまだと、外で呼ばれた時に
しばらく、二人して「ああでもない、こうでもない」と
やがて桃姫がふっと顔を上げた。
「『すずちー』は、どう?」
「えっ?」
「鈴木さんだから、すずちー。『すず』って、
その瞬間、エデンの胸に何とも言えない感情が。
ような、ような、するような……。
「うん!それがいい!それで呼んで!」
迷いもためらいも無く、気づけばエデンは笑顔でうなずいていた。
桃姫は少し
「……すずちー」
「ありがとう、モモキちゃん」
名前を呼び合い、
(……あれ?何だか、いつの
友情の全てが、
ほんのささいな共通の話題をキッカケに、いつの間にか仲良くなれていることもある。
けれど、そんな“いつの間にか”も、そのキッカケとなる何かに気づけなければ、始まらない。
こうして、ささやかなキッカケから、気づけば始まっていたエデンと桃姫の友情。
それはこの先、二人が大人になっても、年をとっても、ずっと続いていくことになるのだが……この日の二人はまだ、そのことを知らない。
「また明日ね、モモキちゃん」
「うん。また明日。すずちー」
今はただ、何となく仲良くなれたことにホッとして、エデンは
それは、二人の友情の、始まりの日の
いつかの遠い未来に「そう言えば私たち、何かキッカケで仲良くなれたんだっけ?」と忘れてしまうほどにささやかな……けれど、二人にとってかけがえのない、とても大切な日の出来事だった。
このページは津籠 睦月によるオリジナル・ファンタジー小説の本文ページです。
構成要素は恋愛(ラブコメ)・青春・魔法・アクションなどです。
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