魔法巫女エデン

 
Episode2:My 愛犬 is like a 王子様<8>

〜ワタシノワンコ、マルデオウジサマ〜

「えぇっ!?そんな……っ青ざめ汗、私たち、これ以上どこへ()げたらいいのっ!?汗
 戸惑(とまど)っている間にも(コケ)範囲(はんい)は広がり、岩盤(がんばん)まだらに緑化(りょくか)していく。
 そして周囲にはどんどん木が()え、あっと言う()ちょっとした木立(こだち)へと変化(へんか)していった。
「どうした、新入(しんい)り。ただ()っ立っていることしかできないか?もうギブアップしてもいいんだぞ。もっとも、その場合(ばあい)には俺からの地獄(じごく)のシゴキ()っているがな」
 頭上(ずじょう)からの声にハッと視線(しせん)を上げると、いつの()にかすぐそばの木の(えだ)にアンバーがとまっていた。
「……アンバー先輩(せんぱい)初心者(しょしんしゃ)相手(あいて)に“コレ”はちょっと、ゲームバランスがおかしくはありませんか?少しは攻略(こうりゃく)のヒントなり(なん)なりくださいよ」
 レトは精一杯(せいいっぱい)虚勢(きょせい)()るように、口元に不敵(ふてき)()みを()かべてみせる。
「……ほぅ。ならば、少し難易度(なんいど)()げてやろう」
 アンバーはそう言うなり、(れい)甲高(かんだか)()き声を上げた。
 すると、レトのすぐそばにあった木に急速(きゅうそく)にミカン蜜柑()(みの)り、次々とオレンジ色に(じゅく)し、ぼたぼた落果(らっか)(はじ)めた。
「姫っ!
 レトはとっさにエデンに(おお)いかぶさり、その実を背中(せなか)に受ける。
「レト……っ青ざめ汗
「姫っ、とにかくここを(はな)れましょう。危険(きけん)です」
 レトはエデンの(かた)()いたまま、その場を離れる。
 だがその行く手を(はば)むように、すぐさま別の木が二人の前に()えてくる。
 さらにその木の枝からは大量(たいりょう)のイガ(ぐり)ばらばら()ってきた。
(いた)……ッ。アンバー先輩(せんぱい)……(オニ)ですか冷や汗
 エデンの身を(かば)ってイガ栗を()びながら、レトが(うら)(ごと)をこぼす。
(だれ)が鬼だ。俺が本気だったら、こんな生易(なまやさ)しいモノなど落とさずに、真っ先にココナッツドリアン()らせているさ」
 エデンとレトは(ふたた)びその場から(のが)れる。
 だがその行く手に、今度はリンゴ林檎の木が()え、ぼとぼと果実(かじつ)()らせてきた。
 レトは今度(こんど)はエデンの身を()いてジャンプすることでその“攻撃(こうげき)”を()ける。
「レト……っ!大丈夫(だいじょうぶ)!?汗
 着地後(ちゃくちご)その場に(ひざ)をつき、(かた)で息をするレトの顔を、エデンは心配そうな顔でのぞき()む。
「……はい……。(もう)(わけ)ありません。こんな……()げるばかりの、(なさ)けない状況(じょうきょう)で……」
「ううんっ!私も、守られてばっかりで、何もできてないし……っ汗
 見ると、レトの(ころも)(すで)果物(くだもの)(しる)やイガ(ぐり)のトゲで、ドロドロのボロボロ(よご)れている。
 だが、レトにしっかりと守られてきたエデンの衣装(いしょう)にはシミ(ひと)つなかった
「……()いのですよ。貴女(あなた)を守ること、それだけが今の俺の存在意義(そんざいいぎ)なのですから」
 レトは(ひたい)(あせ)()かべたまま、ムリヤリに微笑(ほほえ)みを作ってそう言う。
 その、少し(つら)そうな笑顔(えがお)に、エデンの心臓(しんぞう)ドキリと大きく脈打(みゃくう)った。
「それよりも、姫君。アンバー先輩(せんぱい)が“難易度(なんいど)()げた”と言って果実攻撃(フルーツこうげき)を始めたということは、おそらくこの地面(じめん)()ちた果実を使って反撃(はんげき)して来い、ということかと思われます。(いばら)は無理でしたが、アレなら今の俺と貴女(あなた)でも動かすことができるでしょう」
 言ってレトは地面に()らばった果実を()(しめ)す。
 今や二人の(まわ)りには、ミカンや(くり)やリンゴだけでなく、(もも)ブドウ葡萄、サクランボさくらんぼなど様々(さまざま)な果実が散らばっていた。
 中にはつぶれて(しる)()び散っているものも多くある。
「そっか……。“一撃(いちげき)入れたら終了(しゅうりょう)”ってことは、あの中の1コでもアンバーさんにぶつけられたら、ゲームクリアってことだもんね」
「……はい。ただし、小さい物体(ぶったい)は“力”を多く必要(ひつよう)としない()わり、コントロールにより(ふか)集中力(しゅうちゅうりょく)が必要となります。よく(ねら)って攻撃してください」
「うん!」
 レトが手を(にぎ)ってくるのを、今度はエデンは抵抗(ていこう)なく受け入れた。
 さっき手を(にぎ)り合った時に感じた“()めたミルクティー冷めたミルクティー”よりは、やや(あたた)かみを()した“何か”が、エデンの中に流れ込んでくる。
 エデンは地面に散らばる果実の中から1つのリンゴに視線(しせん)(さだ)め、意識(いしき)を集中させ始めた。
 アンバーはその間、次の攻撃をしかけて来るわけでもなく、身を(かく)すわけでもなく、二人の反撃をわざと()(かま)えてでもいるかのように木の(えだ)に羽を休めている。
(えっと……呪文(じゅもん)、何にしよう。リンゴがドーン!とぶつかるイメージだから……)
 エデンはしばらくアレコレと呪文の候補(こうほ)を頭に浮かべた後、「よし!」という顔で口を(ひら)いた。
「行くよ、レト!……アップル・タックル!
 枝の上のアンバーを()()ぐ見すえ、片手(かたて)(つえ)()って、エデンは(さけ)ぶ。
 直後、地に(ころ)がっていたリンゴが、まるで大砲(たいほう)発射(はっしゃ)されたかのように(すさ)まじい(いきお)でアンバーへ向かい飛んでいった。
「…………ぅおっ……と……っ!?汗
 アンバーは寸前(すんぜん)()ばたき、(あや)ういところでそれ()ける。
 リンゴはそのままの(いきお)いで木の(みき)にぶつかり、(あま)(かお)りの(しる)をまき散らしながら粉々(こなごな)(くだ)け散った
 普段(ふだん)のエデンのやや遠慮(えんりょ)がちなイメージそぐわぬ意外(いがい)アグレッシブ遠慮(えんりょ)のない攻撃(こうげき)に、レトもアンバーも思わずまじまじとエデンの顔を見つめてしまう。
 だがエデンはそんな二人の反応(はんのう)には気づかず、がっくりと(かた)を落としていた。
「あ〜ぁ……冷や汗(はず)しちゃったぁ……冷や汗
「あの……姫。アップルタックルというのはいかがなものかと……冷や汗。“アップル・アタック”ではいけなかったのですか……?」
 主人の思わぬ攻撃性(こうげきせい)垣間見(かいまみ)ショックから立ち直り、レトはとりあえず疑問(ぎもん)に思ったことを口にしてみる。
 エデンは一瞬(いっしゅん)しまった汗!その手があった冷や汗という顔をした後、すぐにあわてて誤魔化(ごまか)した。
「い、いいんだもん!()()わせの即興呪文(そっきょうじゅもん)なんだし!それより、次行くよ、レト!アンバーさんに当てないと終わらないし!」
 エデンは(ふたた)(つえ)(かま)え、アンバーに(ねら)いを(さだ)める。
アップル・タックルアップル・タックルアップル・タックル!ーっ」
 エデンは2(はつ)、3(ぱつ)と立て続けにリンゴ攻撃(こうげき)をくり出す。
 だがどれもヒラリとアンバーにかわされてしまった。
「当たらないよ……っ冷や汗。アンバーさん、素早(すばや)すぎ……っ汗
「……難易度(なんいど)は下がっても、やっぱり手加減(てかげん)ナシなんですね……。まぁ、当たったら本気で(いた)そうなので、気持ちは分からなくもありませんが……」
「うぅ……っ、コレ、終わるのかなぁ……っ冷や汗?」
 しょげるエデンとは裏腹(うらはら)に、アンバーはまだまだ余裕(よゆう)がありそうな様子(ようす)リンゴ果汁(かじゅう)飛沫(しぶき)を受けて(よご)れた羽根(はね)手入(てい)などをしている。
 それを苦々(にがにが)しげに(なが)めていたレトが、ふと何かを(ひらめ)いたようにエデンの耳に口を()せた。
「姫君、ここは一つ、発想(はっそう)を変えましょう

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Episode2−110
 
  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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