魔法巫女エデン

 
Episode2:My 愛犬 is like a 王子様
<5>

〜ワタシノワンコ、マルデオウジサマ〜

 次に気がついた時、エデンは何か(やわ)らかい(ぬの)のようなものにくるまれていた。
(……あれ?私、何してたんだっけ……?)
 状況(じょうきょう)がつかめず、ぼんやりと視線(しせん)を上げると、そこには(けわ)しい表情(ひょうじょう)前方(ぜんぽう)見据(みす)えるレトの顔があった。
 その(かみ)は、エデンが気を(うしな)う前の自然(ナチュラル)に流したものではなく、きっちりと(ととの)えられ、()い上げられている。そしてその頭の上には、ひな(かざ)りの男性人形がかぶっているような古めかしいタイプの(かんむり)()っていた。
 服装(ふくそう)ひな人形のような古い時代の和装(わそう)に変わっている。
 だがその衣装(いしょう)は夢の中でエデンの父・慈恩(じおん)が身につけていたものとは若干(じゃっかん)形が(ちが)っていた。
 わきの下を()い合わせていないため、(かさ)()した下の(ころも)がのぞいて見える上着(うわぎ)に、赤と白の糸で英国国旗(ユニオンジャック)(がら)()()まれた青い(おび)、足元には黒革(くろかわ)編み上げ(レースアップ)ブーツ、そして(かんむり)からあごへと()びる(むす)びヒモには、両耳のところに何かの動物の毛でできた扇形のポワポワした(かざ)がついている。
「レト……?その……カッコは……?」
「お気がつかれましたか、姫君(ひめぎみ)。……どうやら平安時代の武官(ぶかん)の“束帯(そくたい)”に和洋折衷(わようせっちゅう)のアレンジ(くわ)えたもののようですね。日本人の父君(ちちぎみ)と英国人の母君(ははぎみ)を持つ姫君の下僕(しもべ)たる俺の正装(せいそう)です」
 (ほこ)らしげにレトが説明(せつめい)する。その姿(すがた)には衣装(いしょう)のせいか、それまでとは(ちが)ストイック雰囲気(ふんいき)(ただよ)っていて、(はか)らずもエデンはどきりとしてしまった。
(うぅ……っ、心臓(しんぞう)に悪いよ……っ赤面汗契約の獣(エンゲージド・ビースト)とかワンコとか言っても、見た目は貴公子(きこうし)って感じのイケメンなんだもん……っ赤面
「姫君も変身なさった方がよろしいですよ。そのままのお姿では戦闘(せんとう)(さい)にお洋服を(よご)してしまいかねません」
「そうだね……」
 うなずいて変身呪文(へんしんじゅもん)を口にしようとし、エデンはそこで(はじ)めて(おのれ)の置かれた状況把握(はあく)した。
「って言うか、何ッ汗!?この体勢(たいせい)赤面汗!」
 布にくるまれている……と感じていたものの正体(しょうたい)は、実際(じっさい)にはレトの衣装の(そで)で、エデンはレトの(うで)にしっかりと()きとめられていた。
「姫君がお気を失われてしまいましたので、とっさに(ささ)えさせていただきました。(おぼ)えていらっしゃいますか?貴女(あなた)はこの結界へ引き込まれる直前、(すく)いを求めるように俺の服を(にぎ)っていらっしゃったのですよ。貴女を守る騎士(ナイト)として(たよ)りにしていただけたようで感激(かんげき)いたしました」
 その時のことを思い出すように幸せそう笑顔(えがお)で言われ、エデンは思わず赤面(せきめん)赤面する。
「そ、それは……っ!と、とっさのことだったし……汗!よく(おぼ)えてないし……っ赤面汗
「そんな……()れないでください。俺はうれしかった……」
 レトのその言葉は、前方から凄まじい勢いで伸びてきた何かによって、唐突(とうとつ)(さえぎ)られた。
 頭めがけて伸びてきた“それ”をとっさにかわし、レトは(ふたた)び表情を(けわ)しくして視線を(もど)す。その視線の先には低い木の枝にとまる一羽(いちわ)(たか)――アンバーの姿があった。
「こら、新入り。俺はお前をエデン様とイチャイチャさせるためにこの結界へ引き入れたわけではないぞ」
 アンバーは不機嫌(ふきげん)そうな低い声でレトに()げる。その姿もレトと同じく、結界に入る前とは若干(じゃっかん)(こと)なっていた。
 基本形(ベース)は鷹の姿のままだが、その(ひとみ)やクチバシや(あし)(つめ)琥珀(こはく)(かがや)きを宿(やど)し、(からだ)にはまるで(かざ)(ばね)のように何本も緑のツタがからまっている。
 そしてアンバーのとまる低木(ていぼく)の枝は、複数(ふくすう)あるうちの一本だけが不自然(ふしぜん)に長く伸び、レトの顔の横で葉を(しげ)らせていた。
「……そっか、アンバーさんの能力、“植物(しょくぶつ)操作(そうさ)”って言ってたもんね。こんな(ふう)に植物を(あやつ)って攻撃(こうげき)してくるってことか。……それにしても、(なん)だかアンバーさんまでドレスアップしちゃってない?」
契約の獣(エンゲージド・ビースト)は結界の中では力が増幅(パワー・アップ)しますから。その増幅分(ぞうふくぶん)実体化(じったいか)して装飾品(アクセサリー)のように(からだ)(いろど)っているのですよ。俺が今()ているこの衣装(いしょう)と同じようなものです」
 言いながら、レトはさりげなく前へ出てエデンをかばう。
「……ほぅ?その態度(たいど)契約の獣(エンゲージド・ビースト)としてまずまずのものだ。だが、これはお前を(きた)えるための訓練(くんれん)手加減(てかげん)はせんからな!」

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Episode2−110
 
  このページは津籠 睦月によるラブコメ・ファンタジー小説 「魔法の操獣巫女(マジカル・ビーストテイム・シャーマン)★エデン」の
シンプル・レイアウト(デコレーション・モードLV2)版です。
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シンプル・レイアウト版は用語解説フレーム版より後に制作しているため、ストーリーが若干遅れています。
 
 
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