まずは、この物語を最後までお読みいただき
有難うございます。
特にリアルタイムで更新を待ってくださっていた皆様には、完結までに時間がかかってしまい(しかももう1作品との交互連載ということで、更新の間が空いてしまったりなどもして)本当に申し訳なく思っています。
ですが何とかこの物語を“花咲く頃”までに無事書き切ることができ、ひとまずは
安堵しています。
(ネット・デビュー作の一つということもあり)何かと未熟な作品ではありますが、作者の現在持てる能力の全てを出し切り、ベストは尽くしたつもりです。
少しでも皆様にお楽しみいただけていれば有難いのですが、いかがでしたでしょうか?
ところで、この物語の原点は、作者の学生時代の通学電車の車窓風景だったりします。
元々風景を眺めるのが好きだったこともあり、片道2時間前後という長い通学時間の間も特に
暇つぶしをすることもせず、ぼんやりと窓の外を
眺めていることが多かったのですが、そうしているうちに
幾つもの“それまで気づかなかったこと”“見えていなかった世界”に出逢うことができました。
そのひとつが世界の“色”の変化です。
一見、何の変わり
映えも無い風景だと思っていても、毎日眺めていると少しずつ季節が移ろい、それにつれて世界の“色”が変化していくのが分かるのです。
たとえば春に小川の土手が菜の花で黄色く染まったり、たとえば土色だった田に水が張られ、苗が植えられ、やがて一面を若々しい緑で覆い尽くし、秋には黄金の穂が実ったり…。
そして何より一番にそんな“世界の色”の変化を感じたのが、桜の季節でした。
花の季節になると窓の外は、断続的にずっと薄紅色の花の海が続きます。「こんな所にも桜があったのか」と驚くほどに、どこまでもどこまでも桜が追いかけてきます。まるでこの短い花の時季だけ、世界を薄紅に染め替えられてしまったかのように……。
薄紅の世界を通り抜けるその
贅沢な通学時間を堪能しながら、不思議な感慨を覚えたことを、記憶しています。
それは「こんなにも短い花の季節のためだけに、なぜこの国の人間はこんなにも日本中に桜を植えたのだろう」という思いでした。
蛇足解説などにも書きましたが、桜は非常にデリケートな植物です。自然繁殖することは難しく、現在日本に植えられている桜はほとんどが人の手によるものです。
つまりは春が来ると当たり前のように現れる満開の桜並木は、かつて名も知らぬ誰かが、その美しい花の景色を願って造りだしたものなのです。
しかも、
ソメイヨシノに
至っては咲いているのはほんの1〜2週間。1年のうちで花が咲いていない季節の方が圧倒的に長いにも関わらず。
実際に桜を守ることや桜を植えることに人生を捧げた人間が存在してきたことを本で読んだりなどして知っていたこともあり、車窓の桜を眺めながら「この桜も、いつかの昔に誰かが、今こうして桜を眺める人たちのことを考えて植えたのかな」と思うと、泣きたいような切ない気分になったものでした。
今のこの時代に当たり前に存在している様々なものが、実は、いつかの時代の誰かの想いと
繋がっている――自分たちは、知らず知らずのうちに過去の誰かからの贈り物を受け取りながら生きているのかも知れない――それを想像することは、とても幸福で、満ち足りた時間でした。
そんな想いが他の様々な要素と結びつき、錬金術のように複雑に合成されて生まれたのが「
花咲く夜に君の名を呼ぶ」です。
この物語を読み終わった後、桜の季節が
巡ってくるたびに何だか優しい気持ちになってもらえたらいいな、世界を映す心の瞳のレンズに、ほんのわずかでも美しく優しい“色”を
添えられたらいいな――そんな想いを籠めて描いた作品です。
拙い作品ではありますが、少しでも“何か”が伝わっていると良いのですが…。
最後にもうひとつ。
実は物語の最後の一行は物語の〆であると同時に、この物語に「読む」という行為で意味を与えてくださった“あなた(=君)”への感謝と願いを
籠めた一文になるように、と思って書きました。
どれほどの時間と手間をかけて書いた物語であったとしても、誰にも読まれず、ただ電脳の海にぽつんと存在しているだけだったとしたら、それはまるで独り言のように
空しいもの――そんな風に思うことがあります。
誰かに読まれてこそ物語に意味や存在意義のようなものが生まれる気がするのです。
ですから、この物語に目を留めてくれ、さらに最後まで読み切ってくださった“あなた”に感謝の気持ちを“物語の中で”伝えたかったのです。
まるで、“あなた”自身が“君”となって物語の一部に溶け込めるように…。
(“あなた”が男性であった場合は物語中の“君”が思いきり女性なのでちょっとビミョウな感じにはなってしまうのですが…そこは作者の実力不足により上手い手を考えられなかったのです…。)
画面の向こう側の“あなた”がどんな方なのか、作者は
窺い知ることができません。
「この世界が美しいなんてとっくに知っている!」という方かも知れませんし、世界の美しさに触れたところでどうにもならないくらいの悲しみに覆われている方かも知れません。
まだまだ若造で人生を知っているとは言えない作者がメッセージを送りたいなどと思うこと自体おこがましいかも知れませんが、この物語を通してわずかでも、“あなた”の世界に美しく優しい色が加わってくれれば良いなと願うのです。
長くなってしまいましたが、ここまでお読みくださって、本当に有難うございました。
どうか、“あなた”に
幸く
有らんことを…。