物語中で登場するヤトノカミ(大刀Ver)の刀装(拵)は、実在の大刀をそのままモデルにしたわけではなく、実在の大刀の様々なパーツを組み合わせたりアレンジしたりして設定した空想の大刀です。
刀身の金象嵌は日本史の教科書でもおなじみの埼玉県行田市の稲荷山古墳から出土した文字の書かれた鉄剣などが有名ですが、他にも聖徳太子が佩用したと伝わる「瑞雲」「七星文」「龍頭」が象嵌された「七星剣」(四天王寺蔵)など、模様が描かれたものもあります。
柄頭の装飾は、「環頭大刀」と呼ばれる、出土している古代の大刀の装飾の中では一番メジャーなものをイメージしています。
これは大刀の柄の先に様々な模様を透かし彫りした環状の金具を飾りとして付けたもので、その透かし彫りの文様は龍だけでなく、「鳳首(鳳凰)」や「獅噛」「三葉」などいろいろあります。
「玉を食む双龍」はデフォルメされた龍の頭が玉を中心に左右対称に二頭配置されたデザインです。「龍」のモチーフは他にも龍が一頭だけの「単龍」などもあるのですが、この双龍のシンメトリーなデザインの方が洗練されているように感じたので個人的趣味でこちらを選びました。
大刀の外装は、その多くが木で作られた柄や鞘を布や鹿の毛皮で包んだり糸で巻いたりした程度のシンプルなものだったと言われていますが、中には刀装全体を金銅で覆ったもの、黒漆を塗った鞘の上に金で装飾を施したものなど、豪華なものも存在しました。
そしてこれらの贅を凝らした大刀は一部の権力者のみが持つことを許されたと考えられています。
奈良時代に入ると刀装はさらに発達し、木の上に皮を巻き、さらにその上に漆をかけ、さらにその上に研出蒔絵の一種である「末金鏤」と呼ばれる技法で雲や麒麟や尾長鳥を描いたり、玉石類をはめ込んだりしています。
ちなみに古代に限らず日本の刀剣の装飾の中で作者が今一番気になっているのは「金地螺鈿毛抜形太刀」(春日大社のご神宝)です。
残念ながら実物を見たことはないのですが、鞘に螺鈿細工で「雀を追う猫」を描いた太刀だと聞いているので、猫好きには気になってたまりません。