鍛冶の神とモノノケ

第11章に登場する神「鉄砂比古」はこの物語だけのオリジナルの男神ですが、モデルとしては日本神話の「天目一箇神(アマノマヒトツノカミ)天目一命(アメノマヒトツノミコト))」をほんのり参考にしています。

天目一箇神(古事記では天津麻羅(アマツマラ))はその名の表す通り独眼の金工・鍛冶の神で、日本書紀播磨国風土記などに登場し、アマテラスが天岩屋戸に隠れた際には刀、斧、鉄の鐸(古事記では鏡)などの祭器を作ったと言われています。
また、この神はあの妖怪「一つ目小僧」のルーツだとも言われているのです。

かつて神だったものが時を経て妖怪にされてしまうというケースは「天探女」など他にも例がありますが、天目一(あまのまひとつ)の場合はこの他にも出雲国風土記に出てくる「目一つの鬼」という人喰い鬼とも(目が一つという共通点があることから)関連性があると言われています。

さらに金属加工と人喰いのモノノケの関連はこれだけではなく、『日本霊異記』には鏡作造(かがみつくりのみやつこ)の娘が高価な贈物を三台の車に積んで求婚してきた得体の知れない男と結婚したところ、その男は実は人喰いのモノノケで、娘はその初夜のうちに喰われてしまったという話があります。
鏡作氏は天糠戸(アメノヌカト)を遠祖とし銅鏡製作に従事する部民で、その村の近くにある鏡作三社の一つ、鏡作伊多社には天目一箇神が祀られていたといいます。

このように製鉄・金工に関わる人々の地にモノノケや鬼の伝承があるのは、昔の製鉄が山間部の川砂鉄を原料とし、川の上流で採鉱・冶金・加工を行っていたため、その下流の田園地帯で公害が起きたことがモノノケや鬼の仕業と見なされたため、という説もあります。

ちなみに隻眼の神やモノノケは片足も不自由であることが多々ありますが、この理由については片目と片足が悪くなっていくのが職業病である踏鞴(たたら)()きとの関連性を推す説や、神に生贄(いけにえ)として捧げられる人や動物の目を片方潰したり片足を折ったりして逃げられなくし、この人や動物を崇めていた習俗によるとする説(←柳田国男さんの説)など諸説があります。
(物語中で語られているような「身代わり説」は作者によるアレンジです。)

隻眼・独脚の冶金神〜西洋の神話・伝説との類似点

ところで鍛冶に関わる神が隻眼だったり片足が不自由だったりするのは、実は日本神話だけに見られるものではなく、西洋のあちらこちらの神話・伝説にも見られることなのです。

例えば北欧神話の主神・オーディンは世界樹ユグドラシルの根元にあるミーミルの泉の水を飲むために自らの片目を差し出し隻眼となった神ですが、鍛冶神でもあったと言われていますし、アイルランドの伝説で英雄フィンの魔法の剣を鍛えたと言われる天の鍛冶師・月の男神(ルノ)は片足が不自由、ギリシャ神話でもゼウスとヘラの間に生まれた鍛冶神ヘファイストス(ヘパイストス)は「いとも名高き足の悪い人(アンフィグエーエス)」と呼ばれ片足の萎えた神として描かれています。
さらに言えば、そのヘファイストスの助手として働いていたのは「円い目」を意味する一つ目の巨人「キュクロプス(サイクロプス)」とされているのです。
 

 
※このページは津籠(つごもり) 睦月(むつき)によるオリジナル・ファンタジー小説花咲く夜に君の名を呼ぶ(古代ファンタジー小説)
  ストーリーや用語に関する豆知識やこぼれ話・制作秘話などを蛇足に解説したものです。
  解説の内容につきましては資料等を参考にしてはいますが、諸説あるものもございますし、
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ファンタジー小説解説へびさんのあんよ
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